やけくその引用句なんて!
新宿のだだっ広い名曲喫茶で昨日接客したばかりのお客さんを見つけて、改めて世間は狭いなとひとりごちている。いちばん端の席に座ってから10分ほど、ウエイターに存在を気付かれなかったし、あの人もこのままわたしに気づかないでいてほしい。蝶ネクタイをして銀のお盆を持ったウエイターは大欠伸をしている。
ショートケーキは子供っぽいかなと誰に対してなのかわからない見栄を張ってアーモンドミルクのケーキを注文した。甘くて大きかった。
思った以上に今週に疲れて、午前中に宅配便を受け取った3分ほどの時間を除けば14時間くらい眠りこけていた。
起きてホットミルクを飲んで換気をして、今日こそは、と谷川俊太郎展へ。
閉館ギリギリに滑り込んで、早速真っ暗な部屋でモニターとスピーカー20台ほどに囲まれて言葉と音と光を浴びる。
しばらく部屋の真ん中に立って惚けていた。
「朝が新しいなら夜は古いのかな?」
という手書きの詩が展示されていた。
そういえば、昨年六本木のスヌーピーミュージアムへ行った際の胸を撃ち抜かれるような愛まみれの翻訳が本当に良かった。愛あって孤独あり。
谷川俊太郎氏へ宛てた過去の葉書なども展示していたのだけど、住所が私が前に住んでいた家と至近でなんとなく嬉しくなった。
「こうして言葉にしてしまうとどこか嘘くさい」ということが死ぬほどわかるし、ますます読むこと書くことに心酔してしまう。
オペラシティを出てから新宿区と渋谷区の狭間に立って、首都高をにらみながら散歩をした。薄着で歩く。
都庁、ルミネ2、ベローチェ、鳥貴族のまがい物、無印良品、路上ライブ、ティッシュ配り、免税店、バスタ新宿、脱毛サロン、ロッテリア、風俗案内。
先月帰省した時に、同い年の従兄弟が着ていたダウンが「カナダグース」というブランドの物だと初めて知り、(最近みんな似たようなダウンを着ている)というぼんやりとした意識しかなかった私を、親族で一人だけ東京都心で生活しているのに一番田舎者だと知らしめる事となった。
家にテレビが無くて一体何してんの?と聞かれても答えはずっと同じ、本を読んだり音楽を聴いたりしています、子供の頃からの夢想癖でいそがしく、テレビを見る暇はありません。カナダグースも、きっと祖母が亡くなっていなければ一生知ることもなかっただろう。夜中まで煌々とネオンを放つ街でひっそり呼吸をしている。
東京へ来て8年目の春がやってくる。
口に含んだ淡い酸味で、やっとお冷がレモン水だと気が付いた。