うわごと

僕のマリ

いつか動かなくなる時まで遊んでね

 

9月1日日曜日、晴れ。
早起きしていつもより少し丁寧に身支度をして電車に乗る。井の頭線小田急線ともに久々だ。長いスカートを踏んづけそうになりながら乗り換えて、着いたのは世田谷代田。
初めて降りる駅だ。降り立つとほぼ閑静な住宅街で、鎌倉通りを一直線に歩く。
十分経たずして着いたのは「邪宗門」。
きょうは喫茶店観察家・飯塚めりさんとデートなのである。
めりさんとは公私ともに繋がりがあり、わたしが彼女の作品を好きな影響もあって、仲良くさせていただいている。

荻窪にある邪宗門は何度か行ったことがあるものの、世田谷邪宗門は初めて。お店の佇まいが渋い。

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待ち合わせの時間より少し前についたので、一足先に店内へ。
もう、店内がすごい。火縄銃や踏み絵が飾ってある。これってこんなカジュアルに飾るものだっただろうか。先客は世田谷ボーイっぽいお兄さん一人。
マスターが持ってきてくれたお冷やに口をつけながらメニューを眺める。
メニュー自体はそんなに多くないものの、「あんみつコーヒー」などの謎メニューに思考を巡らせる。全然想像はつかないがおすすめのようだ。

めりさんが到着。お会いするのは二週間ぶりだろうか?
秋らしいキャメルのワンピースでかわいい…と感激した。もう9月だということを大音量の蝉の声で忘れていた。
メニューを眺め2人でウンウンうなる。あんみつコーヒーをマスターにおすすめされる。
「どんなものなんですか?」と聞くと、写真を見せてくれた。あんみつに熱いコーヒーをかけて食べるらしい。アフォガートみたいだった。

悩んだ末、わたしはレアチーズケーキとアイスコーヒー、めりさんはアイスウィンナーコーヒーとトーストを注文した。マスターおすすめのあんみつコーヒーをパスしてしまった後ろめたさを感じる。 申し訳ないが気分ではなかったのだ。
注文したものが運ばれてきたとき、めりさんがスケッチブックを取り出してササササとスケッチを始めた。キター! と叫びだしたいのを抑え、しばし眺める。二人とも違うものを頼んだので見栄えもいい。アイスコーヒーは氷がいっぱい入ったグラスに熱々のコーヒーを目の前で注がれるスタイル。こういうのはテン ションが上がるので好きだ。おいしそうだった。

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そして一口飲んでびっくり、加糖だった。そこから加糖アイスコーヒー談義。昔ながらの店だからか(加糖が流行っていた時代があった説)、 それとも、関西圏の喫茶店はアイスコーヒーといえば加糖が多いので、マスターが関西人なのかとか、しばし喫茶談義に興じる。

静かにおしゃべりをしていたらマスターがおもむろに近づいてきた 。
壁に飾ってあるものの説明が始まる。
「これね、踏み絵」「へえー、本当に踏まれていたんですか?」「 ……」
あろうことか無視された。ええ…と思ったけれど、わたしの声は小さくて聞き取りづらいとよく言われるので仕方ないことだ。
それから、お店が舞台となったアニメの画像が印刷されている紙を見せられたり、新聞の切り抜きを見せられたりした。わたしもめりさんもこういうのは黙って受け止めるタイプだった。そうですか、 なるほど、などと言いながら甘いアイスコーヒーを飲む。

めりさんが「もう一軒どうですか?」と言ってくださったので、喜んでついて行く。下北沢までお散歩がてら歩いた。いい感じのカフェがたくさんあり、めりさんいわく「需要が高いのでしょう」 とのこと。世田谷の人はきっと裕福で文化的な暮らしをし ている。
そうして行き着いたのは「花泥棒」。めりさんがいくつか提案してくださったときに、名前が最高だったのでそこにしてもらった。 13時前に入店して、お客さんはちらほら。 ここは建築がすごかった。席がちょっとした迷路のようになっていて、どこに座ろうか悩む。窓際に座って、人々の往来を眺める。

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今度ゲストで出るイベントの相談、文学フリマの話、凄い喫茶店の話をした。凄い喫茶店というのは本当に凄くて、どう凄いのかはあまりここでは書けないので、直接聞いてください。ヤバい店を紹介する冊子を作ってみたいなと思った。それとは関係なく、わたしの好きな喫茶店西荻窪のそれいゆと高円寺の七ツ森。

お茶をしていたらだんだん混んできたので、下北をぶらぶらすることに。
日曜日のせいもあってか、人が多かった。二十歳くらいの頃はバンドをやってい た関係で週に一回くらいは下北に来ていたけれど、 ここ数年は全く足を踏み入れていない。駅前は再開発でずいぶん変わっていた。駅の近くのセブンイレブンの店の前に、「セブンアンドアイフォールディングス」のロゴの形に刈り取られた植え込みを発見して爆笑した。

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散歩しながら、「『ネグラ』っていう喫茶店に行ってみたいんです 」とさりげなく言ったら一緒に行ってくださることになった。うれしい。駅近だったので来た道を戻り、奥まった場所にある「喫茶ネグラ」にたどり着いた。三組待ちだったので、近くで時間をつぶすことに。
無印良品に行きたいです」とリクエストして駅前の無印へ。無印大好き。文房具は普段あまり使わないけれど魅力的な商品が多いので、つい買ってしまう。適当なノートがほしかったので雑記帳を買 った。50円しなかったと思う。筆箱やカードケース、携帯用の除光液(あまり売っていない!)などを購入。ほんとうはタオルや収納道具も買いたかったけれど荷物になるので我慢。
頃合いを見計らってネグラへ戻る。ちょうど空いたところでラッキーだった。知り合いの女の子が働いているので、その子に会えてよかった。写真が上手な子で、ZINEも出している。
ネグラでのお目当てはクリームソーダ。メニューを見るととにかくいろんな色があって悩む。ラベンダーと悩んで、スミレのクリームソーダを注文。以前大阪の喫茶店でヴァイオレット・フィズを飲んでからというものの、スミレが大好きになった。 客足は途絶えず、わたしたちがいる頃にはすでに七組待ちになって いてびっくり。みんなネグラをめがけて来るのだろうか。やがて運ばれてきた淡い紫のクリームソーダを見てうっとり。

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頂上にはアラザンが載っていて、グラスにはライムが添えてあった!!!「色に 合わせて果物も変えているのでしょう」と考察した。さくらんぼが載っているものもあったし。
めりさんがまたすごい速さでスケッチされていた。速いだけでなく精度も高いので、見ていてため息が漏れた。ロゴも完全再現していて驚いた 。あまりに緻密に模写されていたの少し笑いが漏れるほど。しばらく文房具の話になり、使っているペンを教えていただいたので近々探してみよう。

よい時間になってので解散して、わたしは野暮用で一旦新宿へ。すぐに終わり、また下北へ戻る。夜は町屋良平さんと高山羽根子さんのトークイベント「「わかる」ことと「おもしろい」こと」 を聴きに行った。高山さんの『カム・ギャザー・ラウンド・ ピープル』の刊行記念のイベント。

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あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので書けないけれど、 高山さんが小説を書くときに使っている手法に、町屋さんが「すご ーーーーい!」と感嘆していたのが良かった。お二人とも装丁は編集さんにすべて任せている、と仰っていたのも印象的だった。わたしは本のジャケ買いが好きなので、そういう話を聞けてうれしい。

 

トークはあっという間で、休憩時間にババババーっと質問用紙に記入し、スタッフに渡す。ビールのおかわり、とカウンターに行ったら、先にいたお客さんが安達茉莉子さんのZINEを持っていた!つい、「これ、わたしも欲しいのですが在庫はありますか」と聞いてしまう。狂人っぽい。

かぼすビールとZINEをゲットしてほくほく。わたしの横の席の人は三杯目のワインを飲んでいた。

 

イベントが再開され、今度は質問と感想にお二人が答えてゆくコーナーになった。なんとわたしの書いたものが読み上げられて恥ずかしかった。

なぜ恥ずかしいかというと、町屋さんの魅力について熱く語るオタク構文で書いてしまったからだ。酔っ払ったときの文章は禁止にした方がいい。

 

わたしは町屋さんの作品にみられる感情の機微、および細やかな描写、傷ついたときの表現などがとても好きで、それを読むたびに「ああ、そうだった、この感覚をずっと言葉にしたかったんだ」とみぞおちのあたりがシクシクするのだけれど、そこが良い!!小説の醍醐味!!と熱弁をふるってしまった。

多分耳まで赤くなっていたと思うのだけれど、町屋さんが「感無量です」と仰ってくださったのでほっとした。

 

無事イベントが終わり、サイン会のときに「応援してます」と言えて良かった。オタク脳なので「ああ、僕のマリさん!」と、認知されていることもうれしかった。変な名前で活動していたのが功を奏した瞬間だった。

 

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好きな作家さんにはずっと活動していてほしいので、もっと出版社に葉書を送ったり、人に薦めたりしよう!と意気込んだオタクなのであった。

 

 

 

 

汚れたせっかくの一張羅

群馬県前橋市にある「世界の名犬牧場」へ。犬が好き過ぎて、定期的に犬に触れないとおかしくなりそうなのだ。

 

伊香保温泉に宿を取り、温泉を満喫して、電車とバスを乗り継ぎ名犬牧場へ向かった。

交通の便に関しては車が断然おすすめだが、わたしは免許を持っていないので公共の交通機関を使うほかない。山の中にあり、決してアクセスがいいとはいえないが、片道四時間かけても、名犬牧場の犬たちに会いたい。

 

この日の群馬県は晴天。風は肌寒いが日差しは暖かい。

バスを降りて山道をしばし歩き、入場券を買って(大人650円。安過ぎる。正気か?)いざ犬たちのもとへ。

 

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いたいた。みんな元気そうで何よりだった。

 

在籍している犬は皆かわいいが、特に推しているアメリカン・コッカースパニエルのクーちゃんを見つけ、思わず「クーちゃん!」と叫ぶ。はっとこちらを見るクーちゃん。かわいすぎる。

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久しぶりだね。
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同じくアメリカン・コッカースパニエルのひじきもてくてく歩いてきた。前回訪れた時はひじきは育児休暇をとっていたので、かなり久しぶりだ。見切れている犬はエアデールテリアのケラン。おやつ泥棒である。

 

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屋内は寒かったので、ヒーターの前が人気があった。そんなに近づくと焦げてしまうのでは…

 

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手前の目力が凄い犬は、キャバリア・キングチャールズスパニエルの北斗!でっかいまろ眉がチャームポイント。北斗の背中を触ったらアツアツだった。ベンチの下では、ひたすら下の犬が上の犬にカキカキされていた。下の犬は、自分の背中で土掘りをされているのにも関わらず、呑気な顔でスルーしていた。

 

歩みを進めて、大型犬のコーナーへ。

大きい子たちは触れ合うことはできないが、柵越しに眺めることができる。

 

バーニーズ・マウンテンドッグ、スタンダード・プードル、ゴールデンレトリバー、ボクサー、エアデール・テリア。

 

柵越しにかわいいねえ、かわいいねえ、と愛でていると、ボクサーのボックスが突然唸り始めた。そして何度も吠えた。同室のゴールデンレトリバーアムロ君に絡んでいる。不穏な空気が訪れた。

アムロ君はもうおじいちゃんだ。先輩犬に執拗に絡むボックス。小型犬、中型犬同士で喧嘩が勃発することはよくあるが、たいてい一瞬でおさまる。しかし、大型犬の喧嘩は少し怖い。

 

執拗にアムロ君に絡み続けるボックス。

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めちゃくちゃ悪い顔をしている。

 

ようやく、アムロ君が大きな声でワン!と吠えた。とうとう喧嘩が始まってしまうのか、と固唾をのんでいると、アムロ君は突然排便を始めた。

 

プルプルと震えながらゆるいうんちを出すと、すかさずボックスがやってきて、液状化したうんちを、ものの10秒で平らげた。ペロペロッ!と、綺麗に床を舐め回すボックス。目の前の光景がなんとも受け入れがたく、唖然とするわたしをよそに、ボックスはアムロ君の肛門を舐めておかわりを催促していた。

 

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そんなボックスの願いは叶わず、アムロ君はご老体を横にして、休憩しだした。
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ボックスはうんちを食って満足したのか、吠えるのをやめてお澄まし顔でこちらを見ていた。

同室の犬たちの表情が、満員電車できちがいが現れた時の乗客のそれになっていた。全員が、ボックスと目を合わせないように遠くを見ている。

 

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ボクサー犬が同室のゴールデンレトリバーを恫喝してうんちを強請る様子を間近で見せられるなんて、たまったものではない。

 

「クソ喰らいのボックス」瞬時に彼の通り名が浮かんだ。

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図らずも、正岡子規のような写真が撮れてしまった。
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弱冠1歳のボックス。なんと末恐ろしい。

 

気を取り直して、おさんぽ体験。

好きな犬を指名して30分場内をおさんぽできるサービスだ。

せっかくなのでおさんぽすることに。指名したのは、ゴールデンレトリバーのオニオンくん。せっかくならデカい犬がいいと思って選んだが、係の人に「オニオンくんは力が強いので男性の方にリードを持って頂きます」と指示され、わたしはビニール袋とティッシュを一枚渡された。うんち処理班に任命されたのである。

オニオン君が来るのを待つ。デート前のような胸の高まり。きたー!!でっかくてかわいい。フンスフンスとわたしの匂いを嗅いでいる。

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ルンルン気分でオニオン君との蜜月を楽しもうとしたものの、お散歩を開始して5分ほどで彼は全く歩いてくれなくなった。困惑する我々をよそに、オニオン君は突然うんちをした。慌ててビニール袋をセットしようとしたものの、間に合わない。下手くそな野球部員のように取り損ねる。オニオン君のうんちもかなりとろとろで、ここの犬は揃いに揃って軟便だな、とひとりごちる。

係の人に渡されたティッシュ一枚では取りきれず、ポケットに偶然入っていたウエットティッシュで頑張って掬ってビニール袋に入れた。とろとろすぎて、土ごといった。めちゃくちゃ臭かった。わたしは1000円払って犬のうんちを処理しているドM女。最終的にはうんちを取りきれず、そのへんにあった落ち葉をかけて隠蔽した。申し訳ございませんでした。

 

傷心のわたしは、再びふれあいコーナーに戻り、クーちゃんといちゃいちゃする。自撮りを試みていたところ、ボルゾイが新幹線のような顔で割って入ってきた。

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激写

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犬サーの姫ことわたし。多分脳から変な汁が出ていた。

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来月もしれっと訪れようと思っている。

ゴールデンウイークは、世界の名犬牧場へ!

https://www.meiken-bokujou.com

 

 

きみはぼくのまぼろしだった

土曜日の夜、なんだかなあと思いながらぼんやり過ごしていたらリノちゃんから猛烈にLINEがきていた。

彼女は週末に大阪から東京に遊びにきていて、わたしたちが遊ぶ約束をしているのは月曜日のはずだったが。

「いまからお茶せえへん?」との誘いに二つ返事でオーケーする。時刻は22時過ぎ。お正月に会って以来なので、およそ3週間ぶりくらいのリノちゃん。わたしの本を読んだことがある人にはお馴染みのリノちゃん。見ていなかったLINEは5件くらいきていて、当然返事はしていなかったのに、いざ返すともう近くの東中野まできているという。

 

リノちゃんもわたしもお気に入りの喫茶店で、真夜中のコーヒーゼリーアメリカンコーヒー。いけないと思うことほど、いい。

成田空港は吹雪いてたとか、お兄さんのお店に行ってきたとか、一生懸命喋っていた。お茶をしながら月曜日の予定を立てた。あえて言わなかったけれど、わたしは喫茶店は基本的にひとりで行く。打ち合わせで使うこともあるけれど、こうやって誰かとお茶をしながら遊びの予定を立てたりすることがなかったから、いちいち嬉しくなった。上機嫌のわたしはhanakoの喫茶店特集なんかを持ってきたりして、パフェの写真でわあわあ言った。

わたしたちは二人ともかなり気分屋なので、行きたいところが二転三転する。そしていい意味でテキトーなので気楽だ。その場その場で提案してどこかに行くのは、リノちゃんと遊ぶ時の鉄板スタイルだ。気分って絶対に変わるし。

いい時間になったので解散した。

リノちゃんは日曜日に格闘技の試合を観に行くので近くにホテルを取っているのだった。

 

そして月曜日、早起きして支度。

「表参道に11時集合」というセレブすぎるスケジュールにドキドキする。

わたしは電車を間違えまくったのだが、結果的にリノちゃんと同じ電車だった。

 

ずーっと行きたかった青山フラワーマーケットのカフェへ。お花屋さんの奥にあるカフェスペースで、お花に囲まれながらお茶をできる夢のようなお店。

一歩足を踏み入れれば、薔薇の香りがふわっと鼻を掠める。店内を彩る無数の植物を眺めているだけで心まで華やぐ。

 

ブランチをして、リノちゃんはオシャレなサンドイッチ、わたしはツナを挟んだパンみたいなものを食べた。美味。リノちゃんは好きな味のパンだったみたいでとても喜んでいた。

店内がとにかく美しいので写真を撮る。

でも撮りすぎたらお店の方に迷惑かな、と思って少し遠慮した。お花って大好き。貰うもので一番嬉しいものはお花だ。カフェを出てお花屋さんを覗いて帰るも、後ろ髪を引かれる思いで店を出た。もう増やせないのに、きれいなまるっこい花瓶まで欲しくなった。

 

近くに台湾のパイナップルケーキ屋さんがあるというので着いて行く。

そのお店が物凄い建築でギョッとする。閑静な住宅街でひときわ目立っていた。リノちゃんは友達に買って帰りたいと言って、お土産用のパイナップルケーキをご購入。ケーキとお茶のサービスがあるのでどうぞ、と誘われて台湾茶と林檎のケーキで一服。しみしみのケーキが美味しい。食べ終わると、ケーキのお砂糖が口の端についていて、舐めたら二度美味しかった。

 

そこから浅草へ向かう。銀座線で一本。

最近競馬にハマっているリノちゃんが、「競馬のパドック(レーンを周回するやつ)で勃起してる馬がおんねんで!」と画像を見せてくれて、それが本当に立派過ぎて電車の中でイシシ!!と笑ってしまう。リノちゃんも笑いながら「馬も恥ずかしいやろ〜、パンツ履かせたったらええのになあ」と言っていた。

わたしはといえば、しょっちゅう行っている群馬の名犬牧場で、柴犬と自撮りしようとしたらお尻を向けられたので、ずっと「アナルとわたし」だと思っていた写真があるのだが、よーく見てみると、それはアナルではなくメス犬の膣の部分で、アナルは少し上に申し訳程度にあって、「膣とアナルとわたし」だったことを独白するとめっちゃ笑っていた。

 

そうこうしているうちに浅草についたので浅草寺へ。リノちゃんはお祭りとか屋台とかが大好きなようで、仲見世通り楽しみやな!と意気込んでいた。

わたしは数年ぶりの浅草。ついつい飲みたくなる気持ちを抑えて浅草寺の中へ。月曜日だったのに結構な人混みで、土日は凄いんだろうね〜と言いながら人をかき分ける。わたしが人に思いっきりどつかれてムスっとしていると、「観光で来とる外国人とかに、日本人意地悪や思われたないから頑張って堪えんねん」と良いことを言ってくれた。ヨッ!リノちゃん!

 

お参りして、喫煙所でやーっと煙草を吸って(オシャレな店はまず吸えない)、観光客がばらまくお菓子に群がる鳩から自分に似てるのを探したりして、おやつを食べに甘味処へ。リノちゃんはクリームあんみつ、わたしは田舎おしるこ。おばあさんになったらこういうところで働くのもいいな。

カバンを整理していたリノちゃんが自然な動きでわたしにチョコレートをくれて、わたしも自然に受けとる。さっきレーズンサンドをもらったばかりだけど。

 

浅草を出てから、狙っていた新橋のキムラヤという喫茶店へ。本当はプリンアラモードも食べたかったけど、お腹がパンパンだったのでアメリカンコーヒー

しゃばいコーヒー、って言って関東の人に伝わるだろうか?シャバシャバの、薄い、という意味で、リノちゃんはしゃばいコーヒー、ビール、ポカリが好きだと言う。こっちで東京の子に「しゃばい」と言ったらハテナがたくさん浮かんでいたので、関西圏の言葉なのだろう。言葉って不思議よね、って話をした。わたしは「なおす(元の場所に戻しておいて)」と言うのがなおらない。なおすがなおらない。母親が大阪で父親が福岡なので、わたしは少し独特の喋り方をしているらしい。方言や訛りって面白い。

 

夕方になって、わたしは別の用事、リノちゃんは飛行機の時間があるのでお別れになった。「わたしの行きたいとかばっか行ってごめんなー!」と謝っていた。「全然〜」と言葉少なく答えたけど、リノちゃんが行きたいところはだいたいわたしも行きたいところなのだ。

 

新橋駅のホームでいよいよバイバイするとき、リノちゃんは自分が好きで買ったはずのかりんとうを、強引にわたしに握らせて「ほな」と去っていった。もっとも、彼女の大きな愛は、わたしの小さなカバンには到底入り切らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

嫌われても好き

お世話になっている女性が入院しているので、お見舞いに行くことにした。朝はやく家を出て、鍵を閉めてから手土産を忘れたことに気づく。電車からバスに乗り換える。降りる改札がわからなくて当てずっぽうに出たら反対側で、慌ててバス停があるほうの改札を目指す。目の前で無情にもバスは走り去り、時刻表を見たら15分ほど後にしかこないようだったので、少し歩いてみる。季節外れの銀杏並木が綺麗で、落ち葉を踏みしめながら歩く。バス停3駅分くらい歩いたところで、花屋にチューリップが売ってあるのを見つけた。病室で待っている人の顔がすぐに浮かんで、反射的に買ってしまった。あの人はチューリップがとても似合うから、絶対にあげたいと思った。ラッピングしてもらっている間、次に乗ろうと思っていたバスがまた通り過ぎた。花瓶が必要だったけれどめぼしいところがなくて、コンビニのプラスチックのカップを慌てて買った。花束とコンビニの袋を提げてしばし呆然とする。バスはもうしばらくこない。面会の時間は限られている。タクシーに乗ろうと思ってずっと道路沿いを佇んでいたけれど、一向に捕まらない。駅まで行ったらいいのかもしれないけれど駅がどこだかわからない。近くに交番があったけれど、何故か聞く勇気が出ない。タクシーは捕まらない。訳がわからなくなって泣きそうになる。花屋にさえ寄らなければ。わたしってどうしていつもこうなんだろう。なんで当たり前のことが出来ないんだろう。どうして、どうして。半べそをかいていたところで、やっとタクシーが見つかって平気なふりして乗り込んだ。初めて行く病院の名前を告げて白いシートに身を沈めた。ラジオでは科学の先生が冬休みの子供達に電話で質問に答えている。どうして冬は窓に水滴が付くのか、どうしてアリは土の中に巣をつくるのか。先生に、どうしてわたしはこんなに頭が悪いのか教えてほしかった。疲れきって窓にもたれてうとうとする。小さな女の子のたどたどしい声で最後の質問が読まれた。

「どうしてチューリップは、たねが無いのですか」

その瞬間、初老の運転手とミラー越しに目があった。

踊り続けるなら

あんまり喜びすぎないようにしよう、っていつも思っていた。わたしは子供の頃から遅れていた。人並みに出来ることが、何一つなかった。普通にすることができなかった。だから、みんなが出来て当たり前のことを喜んだところで、虚しいだけだと、あるとき気づいてしまった。

それからはもう、自ら道化になるしかないと思っては、平気なフリして飄々と振舞っていたけど、本当はつらかった。

 

今年の春、好きなことをしてみよう、と思って文章を書いて発表した。100冊売り切った。自分の作ったものを、お金を出してまで欲しいと思ってくれる人がいることに、正直かなりびっくりしていた。色んな出会いが増えた。友達なんていらない、って意地張ってたのに、気づけばたくさんの縁に恵まれた。

それからずっと書き続けて、秋にもう一冊本を書いた。自分を晒してみようと思った。「いかれた慕情」と名付けた本に、恥ずかしいことをたくさん書いた。もう失うものなんてないし、と思っていた。やけくそだった。

 

一ヶ月経たないうちに、いちばん信頼していた編集者の方にBRUTUSで紹介して頂いた。発売日にコンビニで買って、フワフワした頭で読んだ。スノードームをひっくり返したような景色が見えた。わたしはあなたにずっと褒めてほしかった。だから涙が出そうだった。

 

そして、クイックジャパンにコラムを寄稿させて頂いた。最初はいたずらメールだと思って、色々勘繰ったけど本当だった。渋谷駅のホームで崩れ落ちそうになった。自分の名前が、全国で売っている雑誌に載った。嘘みたいだ。ばかげた夢が本当になってしまった。

 

色んな人から感想を貰って、胸がいっぱいになった。いままではあんまり素直に喜べなくて「でも」とか「別に」とか「運が良かったから」と言っていたけれど、本当に本当に嬉しい。「頑張ったね」というねぎらいと、「おめでとう」という言葉を、まっすぐ受け取って大事にしようと思った。

 

わたしは完全な本名では活動していない。雑誌に載せてもらえたことは、家族も友人も知らない。田舎で暮らす両親にいつか言えたら、と思う。二人の目にわたしはどう映っているのだろう。出来ないことばかりで、落胆ばかりさせてきたと思う。だからいつか、「色々あったけど、わたしの人生は確かに華やいだよ」と言いたい。

 

大好きな金色のしゅわしゅわでひっそりと祝杯をあげる。忘れたくなくてピアスを開けた。色んなことを思い出して大泣きした。喜びすぎてもいい、今夜だけは、今夜だけは

 

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醒めない

明け方4時に起きて、スピッツを聴きながら青白い顔でブログを書いている。

ここ最近ずっと打ち込んでいたことが終わってほっとする反面、少しの寂しさが残った。

 

文学フリマ東京、ありがとうございました。

出店者も来場者も過去最多で、人の多さにめまいがしそうだったけれど、静かな熱気を感じてとっても楽しかった。

 

初めて会った人、画面越しに知っていた人、友人、文学フリマで知り合った人、憧れていた人が、入れ替わり立ち替わり訪れた。

一生懸命話そうとしたけれどうまく話せなくてもどかしかった。

それでも、勇気を出して来たと言う女の子の赤い目や、初めて会った人の震える手を見ていたら、緊張しているのはわたしだけじゃないと思った。

サインをくださいと言われたり握手を求められたり、2冊買ってくれた人がいたり、すごく変な感じだったけれど全部嬉しかった。

 

差し入れもたくさん頂いた。

動物モチーフのお菓子、犬のぬいぐるみ、ミルクが多いチョコレート、手紙、わたしが好きな花が入った花束。好きだと公言したわけじゃないのに入っていた、大好きな紫のスターチスを見た瞬間に鼻の奥がツンとした。気持ちや心遣いが本当に嬉しかった。ただでさえ遠いところなのに、お金も手間もかかるのに、わたしを想ってプレゼントしてくれる人がいることが信じられないくらいだった。全部大事にします。

 

 

「いかれた慕情」は、色んな人の力を借りて出来た作品だった。

イラストに安藤晶子さん、編集と校正に河野真雪ちゃん、推薦文は豊田道倫さん。

〆切ギリギリにならないとできないだらしない性分のせいで色んな人に迷惑をかけてしまったのに、みんなわたし以上に一生懸命協力してくださった。

お忙しいなか、美しいイラストを描いてくださった安藤さん。出来上がった絵を見たときは息を呑んだ。だから、装丁に関しては自信があった。実際にそれで買ってくださった方も何人かいた。本当に素晴らしかった。こんなに鮮やかな色をつけてもらって、わたしの文章は確かに華やいだ。

二人三脚で入稿作業まで駆け抜けた真雪ちゃん。友達だったから、わたしは彼女の性格をよく知っていたから。真雪ちゃんがいつもわたしの文章を読んでくれていたのも間近で見てきたから、安心してお願いすることができた。甘えてしまって、かなり無理をさせたと思う。だけどこうやって形に残って良かった。

素敵な推薦文を書いてくださった豊田道倫さん。前作から読んでいただき、ネットプリントも「紙が似合う文章だから」と応援してくださっていた。いただいた文章を何度も読んだ。「独特だ」と言ってもらえて嬉しかった。自分という個人を認めてもらえたようだったから。別の形で表現をしている方に背中を押してもらえて、勇気がでた。

 

わたしはあまりにも無力で、ひとりじゃ全然できなかった。でも、誰かと何かを作ることがこんなに幸せだと思わなかった。イベント前日に届いた本を読んだとき、少し涙が滲んだ。宝物ができた。

 

文学フリマが終わってから心のこもった感想が続々と届いて、また泣きそうになった。雑なことは言いたくないから、時間はかかるけれど必ず返事を書きます。

 

手に入れた本を読むのも楽しみだ。

大好きな喫茶店でお茶をしながらゆっくり読もうと思う。

 

要望もいただいたので通販も開始した。

https://bokunotenshi.stores.jp

一生懸命書いたから、読んでほしい。

よろしくお願いします。

 

 

イベントが終わってから一人でビールを飲んで、ほろ酔いで帰った。昨日だけで新しい出会いがたくさんあった。ひとつひとつが、味の濃い果実のようだった。口に入れて噛んでみたら、甘くはじけた。紙袋から溢れる花束を見たら、胸が熱くなった。

 

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ノータイトル

先週は酷い風邪を引いて何日か寝込んでいた。咳をし始めるとキリがなくて、変な言い方だけど軌道に乗り始めたら永遠にゴホゴホ言ってあばらが折れそうなくらい咳をしてしまう。わたしは喘息持ちなのだ。

朝なのか夜なのかわからない暗い部屋で、冷蔵庫の明かりに照らされながらポカリスエットを飲んだ。

どうしても早く治さなければいけなかったので、嫌いな栄養ドリンクも飲んだ。味と喉越しが苦手過ぎて、何度飲んでもえづいてしまう。

どうにかこうにか治って、なんて事ない顔して電車に乗って人と会って酒を飲んだ。

 

人を遊びに誘ったり、自分から連絡をすることがとても苦手だ。子供の頃から苦手だった。

LINEのアプリを起動したり、Gmailを開いただけで心臓が止まりそうになる。病気だと思う。電話など論外だ。

基本的になんであれ約束は忘れないが、連絡する勇気が出ない。大事なメールを送るときには酒を五杯くらい飲んでから震える指で送信ボタンを押してまた三杯くらい飲む。病気だと思う。

遊びでもなんでも、誘ってもらえるうちが花だと思う。こんなことを言っているが、誘ってもらえるととても嬉しい。

 

引っ越しを検討しているが、引っ越しはかなり体力を使うので腰が重い。

二年ごとに絶対引っ越しているのでなんだかんだ引っ越すと思うけれど、どこにしようか悩んでいる。

もっと悩むことは沢山あるのに余計なことで悩んでしまう。

今はとにかくパソコンに向かったほうがいい。

明日なにかを発表するかもしれない。

 

人生で初めて公開初日に映画を観る、ということをやった。金曜日の新宿でホラー映画。

「音を立てたら、即死」というキャッチコピーで、観客はポップコーンを食べる音すら躊躇するほど場内は静まりかえっていたが、途中ででかいクシャミを二回もしてしまった。即死だった。

 

友人の赤ちゃんに初めて会った。

祝日に、横浜の外れのほうまではるばる会いに行った。

新宿の伊勢丹で出産祝いを買って、手土産のケーキ、友人にあげるプレゼントも持って大荷物で友人の家に行った。

彼女は数少ない友人だ。そして親友だ。

10代の頃から知っている彼女が、赤ちゃんを抱っこ紐で括り付けて颯爽と現れた。

人見知りするから最初は泣くと思う、と言われたが赤ちゃんは最後まで泣かなかった。

赤ちゃんを昼寝させている間に色んな話をした。実はこれからシングルマザーになる、と告白された。夫にモラハラされて、暴力を振るわれる寸前にまで関係が悪化していたらしく、今は離婚調停中だと言っていた。殴られても良いからこの子だけは守りたいと思った、と言われて少し泣いた。

からしっかり者でみんなから慕われていて、そんなところが大好きなのに、そのいじらしいほどの強さを見ると寂しくなる。

赤ちゃんは彼女にそっくりな女の子だった。別れ際にバス乗り場で、昔誕生日に貰った花柄のパスケースを見せて「まだ使ってるよ」と言ったときの、あの子の笑顔が本当に美しかった。