うわごと

僕のマリ

思い出になんてなんないで

文学フリマ東京が終わった。
昨年の春に出店するまで存在すら知らなかった文学フリマが、いまやわたしの人生の一大イベントとなっている。本を愛し、本を書きたい人たちの慈しみ。書き手と読み手が運命のような出会いを果たす、夢が詰まったイベントだ。

いつもいつも慌てているのだが、今回も日付が変わるまで作業と準備が終わらず。新刊の入稿はすでに済ませ、あとは当日を待つのみだったはずが、「新刊を買うためだけに来てくれる人がいたら忍びない」という自意識の高さゆえ、書き下ろしのエッセイを頒布することにしたのだ。わたしはいつも、イベントがあるたびに「その日配る用のエッセイ」を書いている。気の利いたノベルティを作ることや 、面白い会話が出来ない申し訳なさで、いつもエッセイを書くことに帰結する。不器用なのだ。

 

深夜に寝て四時に起きて準備。雨音を聞きながら熱いシャワーを浴び、荷物をまとめる。毎度ながら、花や花瓶などのどちらかといえば不要なものが多いので四苦八苦。重たい荷物を抱えて家を出る。雨は止んでいない。

 

会場には九時すぎに着いた。モノレールに乗るときはスーパーカーを聴くのがわたしの儀式だ。窓から見える水面がきらきらとしていた。
出店者の入り時間は十時からだったが、不安すぎて「鬼早いですが九時半に駅集合で」と、新刊の版元であり売り子をやってくださる本屋lighthouseの関口さんにお願いしたのだ。 わたしたちが会うのは三回目。人見知りを発揮しないか不安だった。
一本早い電車で来たが、関口さんも同じ電車だったようで無事落ち合う。
「僕、雨男なんです」とこぼす関口さんだったが、ちょうどそのタイミングで空から光が差し込んだ。まばゆかった。

 

出店者の列に並び、雑談や打ち合わせをする。
途中で同じ出店者のサウナ男子二人と半年ぶりに会う。ブタゴリくんとおひやさん。東北と名古屋からの参戦である。思わず顔がほころんだ。
三十分以上早く着いたが、なんだかんだであっという間に入場時間になった。

設営にはかなり手間取った。わたしはこだわりが強すぎて、敷き布の幅とレースのズレが気にくわなくて十五分くらい難儀していた。 普通のひとだったらキレられても仕方ないほどモタモタしていたけど、関口さんが鷹揚な性格で命拾いをした。今回は日記集の相方、伊藤佑弥さんとyoeさんと隣接配置。やはり知っている方が隣だと精神衛生上いい。反対側には早乙女ぐりこさん。『 東京一人酒日記』が気になったが、すぐには言い出せず。
なんとか設営完了して、十時四十分くらいにお手洗いに行った。女子トイレは混んでいて、出てきたら十時五十二分。再び会場に入ろうとしたら、運営の人に「開場十分前は締め切っています、一般のお客様と一緒に入ってください」と言われて絶望。この長蛇の列に並ばねばならぬのか。再入場するたびに使う、出店者である証のカタログを見せても「入れられません」の一点張りだった。困っていたら同じ境遇の人が何人かいたようで、たちまち運営の人にブーイングが上がった。
「なんのために出店者にカタログを配っているんですか?」「ブースにお金置きっぱなしなんですよ」「女子のトイレはすごく並んでたんです!」とちょっとした騒ぎになった。わたしは「遺憾です」 といった顔をしながら、関口さんに「締め出されました、うける」 とDMを送ろうとしていた。その間にもみんなキレ散らかしている。出店者のあまりの剣幕に運営側も負けたのか、五十八分くらいに入れてもらった。 

 

慌てて仮面をつけて着席。諸事情がありいよいよ顔を出せなくなった。わたしごときが顔見せNGなんて生意気に思われただろうが、 以前イベントで盗撮されてツイッターにあげられたり、住んでいるところを教えて欲しいとメールが来たり、DMで粘着されたり、実は散々な目に遭っている。面倒くさいので顔は出しません。

 今回は「僕のマリ」ブースというより「出張本屋lighthouse」といったほうが正しかっただろう。関口さんがiPadを使ってお金の計算と売り数を打ち込んでいた。
寄稿させていただいた『つくづく』の刊行人・金井さんが見えて、今度下北沢B&Bで開催されるイベントのチラシをくださったので 「ありがとうございます!バイト先に置きますね!」と言ったが、 ブースに置いて宣伝する用だったことに三時間くらい経ってから気づく。わたしは何がしたいのだろう。恥ずかしくて死ぬかと思った 。
イベントは緊張するけれど楽しみです。みなさまふるってお越しください。 


文学フリマが始まるまで、『まばゆい』が売れなかったらどうしよう、という不安がかなり強かった。今回は本屋lighthouseに初めての版元になっていただき、 写真も品子にお願いして何度も撮り直した。気持ちを込めたぶんだけ、楽しみより恐怖が勝った。こんな気持ちになるのは初めてだっ た。夏が終わった頃から、八キロ痩せた。
『まばゆい』は題字だけで内容がわかる本ではない。名前だけで手にとってくれる人がいるほどの知名度もわたしにはない。純粋に「 文章」のみで挑んだこの一冊が、売れない可能性は十分にあったと 思う。もちろん、売れる、売れないがすべてではない。しかし、 暗い部屋でひたすらに書いたこの祈りが誰にも届かなかったら。そういうことを考えるたび、 心臓のあたりがきゅっと冷えた。

開場してすぐに、新刊を求めてブースに来てくださる人がいた。知ってる顔も知らない顔もあった。列が出来ていた時には涙が出そう だった。お礼を言って、挨拶を交わして、 握手を求められたらぎゅっと握った。あまりの体温の低さにみんな驚く。ひとりひとりの顔を、表情を、見逃さないようにした。素顔だったら人と目をあわすことすら苦手だが、仮面のおかげでそれができた。「部数限定」とアナウンスしたのを気にして、自分のブースを空けて買いに来てくださった女の子たち。ずっと応援していた作家さん。ずっと応援してくださっているファンの方、友人たち。
 昼下がり、『まばゆい』は完売した。最後の一冊は下北沢B&Bの内沼晋太郎さんの手に渡った。

完売で深い安堵に包まれたが、タッチの差で買えなかったお客さんの顔を見ると申し訳ない気持ちでいっぱいになった。それでも「 応援しています」と声をかけてくださった方が何人かいて、早めに 帰ろうと思っていた気持ちがふっとんだ。新刊の感想をさっそく伝えに来てくれた青年もいた。生の声を聞けて、感無量だった。
ブースに一度立ち寄った女の子に「新刊は売り切れたんです」と伝えた。目がぱっちりとした、かわいい子だった。書き下ろしのエッ セイを渡し、若干数の通販があることを伝えると、彼女は去った。 しばらくして、またわたしのブースに来て「すみません、どうしてもお話してみたかったんです」と震える声でこぼした女の子は、 涙を流していた。わかるよ、と言いたかったけど、バッグのなかで くちゃくちゃになっていたティッシュを渡すことしかできなかった 。
今年、自分が大好きな作家さんとお話する機会に恵まれた。ずっと雲の上だったような存在の、自分のお守りになるような本を書いた人たちに初めて会ったとき、言葉より先に涙が出た。 わたしにとって東京は、それがかなう場所だった。
彼女は真っ赤な目で、ブログは全部読んでいる、本もすべて持っている、イベントにもずっと行きたかったけれど日にちがなかなか合わなくて、と一生懸命話してくれた。自分のことをこんなに応援し てくれる人がいることを知って、書いててよかった、と思った。
わたしが強くいることが、応援してくれる方への恩返しだと思う。

 

落ち着いたので店番をお任せして、自分の買い物をした。あまり買いすぎないようにしよう、と思っていたのに、気づいたら両手いっぱいに買っていた。安達茉莉子さんのブースでご本人にお会いでき て、即興のメッセージつきサインをいただく。宝物ができた。お友達のPARTYとmannさんの短歌集もゲット。岡山からいらしたmannさんに 「この前のツイート面白かったです」と伝えたが、多分わざわざ文学フリマで言うことではなかった気がする。餅井アンナさん、 飯塚めりさんのブースで雑談。うれしい。でこ彦さんに取り置きを 頼んでいた新作を受け取り、まだ読んでいないのに緊張。 連載の感想を伝えたかったのに、うまく言えず。はやく読みたい。 そのほかにも色んなブースに伺った。みなさんやさしくしてくださりありがとうございます。財布の有り金が尽きたので関口さんを恐喝して二千円借りた。町屋良平さんが寄稿されている合同誌が絶対に欲しくて終了十分前に慌てて買いに行ったら、 ブースにまさかのご本人がいらした。緊張したが、 サインもいただきうれしかった。挙動がおかしくなっていて不気味だったと思うので猛省。町屋さんの新刊の感想は改めてブログに書く。

 

こだまさんが寄稿されているので、絶対に手にしたいと思っていた 『生活の途中で』が完売で肩を落としていたら、寄稿者である久保いずみさんがブースに来てくださった。実は共通の知人がいる、 という話で盛り上がる。『生活の途中で』が欲しかった、とこぼしたら「汚れていて、ミワさんが売りたくないと言っている 一冊ならあるので、確かめてきます」とのこと。わがままを言って買わせていいただいた。大切に読む。

 

汗だくで終了時刻を迎えた。この日、天気がよかったのと、雨上がりの湿度と会場の熱量でとにかく暑く、冷房をつけていても汗をかくほどだった。セーターの落とし物のアナウンスに、伊藤さんとくすくす笑った。
いままで売り子は友人の女の子に頼んでいたのだが、今回初めて男性に頼んで、かなりの厄除け(言い方失礼)になることに気づいた 。アドバイスおじさんや粘着してくる人がいなかった。これは本当 にありがたい。トラブルなしで終われてほっとした。

 

撤収してから、生湯葉シホさんとyoeさんにお声がけいただき、 関口さんと四人で打ち上げ。店番中は水分を摂るのもやっとだったので、空きっ腹にお酒を流し込んで無事死亡。座ったまま事切れてしまった。このあたりから記憶を失っている。LINEで品子に「 完売した」という旨を送ったが、誤字がすごかった。どうにかこうにか最寄りにつき、いただいた花束を抱えて帰宅。うれしいメッセージをたくさんいただき、満たされた気持ちで眠った。

 

『まばゆい』は11月30日土曜日の正午から、「若干数」の通販 と(冊子は本当にわずかです)、PDFでのデータ販売(無限) が行われる。版元であるlighthouseさんのツイッターをチェックしてください。

「ある日、嫌いな常連の訃報で爆笑した」 という最低の書き出しで始まるエッセイも、通販ぶんに封入予定です。二百部以上刷ったけどなくなった。自分で書いたのに読み返すたびに噴き出している。

 

最後に、来てくださったみなさま、本当にありがとうございました。
来年は地元福岡、ソウルメイトが住む大阪の文学フリマにも出店したいです。

街頭のネオンが瞬いていて、冬がやってくるのを感じる。
雨の降る夜、高円寺の七ツ森にて。春を待ってる。

 

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