うわごと

僕のマリ

きみはぼくのまぼろしだった

土曜日の夜、なんだかなあと思いながらぼんやり過ごしていたらリノちゃんから猛烈にLINEがきていた。

彼女は週末に大阪から東京に遊びにきていて、わたしたちが遊ぶ約束をしているのは月曜日のはずだったが。

「いまからお茶せえへん?」との誘いに二つ返事でオーケーする。時刻は22時過ぎ。お正月に会って以来なので、およそ3週間ぶりくらいのリノちゃん。わたしの本を読んだことがある人にはお馴染みのリノちゃん。見ていなかったLINEは5件くらいきていて、当然返事はしていなかったのに、いざ返すともう近くの東中野まできているという。

 

リノちゃんもわたしもお気に入りの喫茶店で、真夜中のコーヒーゼリーアメリカンコーヒー。いけないと思うことほど、いい。

成田空港は吹雪いてたとか、お兄さんのお店に行ってきたとか、一生懸命喋っていた。お茶をしながら月曜日の予定を立てた。あえて言わなかったけれど、わたしは喫茶店は基本的にひとりで行く。打ち合わせで使うこともあるけれど、こうやって誰かとお茶をしながら遊びの予定を立てたりすることがなかったから、いちいち嬉しくなった。上機嫌のわたしはhanakoの喫茶店特集なんかを持ってきたりして、パフェの写真でわあわあ言った。

わたしたちは二人ともかなり気分屋なので、行きたいところが二転三転する。そしていい意味でテキトーなので気楽だ。その場その場で提案してどこかに行くのは、リノちゃんと遊ぶ時の鉄板スタイルだ。気分って絶対に変わるし。

いい時間になったので解散した。

リノちゃんは日曜日に格闘技の試合を観に行くので近くにホテルを取っているのだった。

 

そして月曜日、早起きして支度。

「表参道に11時集合」というセレブすぎるスケジュールにドキドキする。

わたしは電車を間違えまくったのだが、結果的にリノちゃんと同じ電車だった。

 

ずーっと行きたかった青山フラワーマーケットのカフェへ。お花屋さんの奥にあるカフェスペースで、お花に囲まれながらお茶をできる夢のようなお店。

一歩足を踏み入れれば、薔薇の香りがふわっと鼻を掠める。店内を彩る無数の植物を眺めているだけで心まで華やぐ。

 

ブランチをして、リノちゃんはオシャレなサンドイッチ、わたしはツナを挟んだパンみたいなものを食べた。美味。リノちゃんは好きな味のパンだったみたいでとても喜んでいた。

店内がとにかく美しいので写真を撮る。

でも撮りすぎたらお店の方に迷惑かな、と思って少し遠慮した。お花って大好き。貰うもので一番嬉しいものはお花だ。カフェを出てお花屋さんを覗いて帰るも、後ろ髪を引かれる思いで店を出た。もう増やせないのに、きれいなまるっこい花瓶まで欲しくなった。

 

近くに台湾のパイナップルケーキ屋さんがあるというので着いて行く。

そのお店が物凄い建築でギョッとする。閑静な住宅街でひときわ目立っていた。リノちゃんは友達に買って帰りたいと言って、お土産用のパイナップルケーキをご購入。ケーキとお茶のサービスがあるのでどうぞ、と誘われて台湾茶と林檎のケーキで一服。しみしみのケーキが美味しい。食べ終わると、ケーキのお砂糖が口の端についていて、舐めたら二度美味しかった。

 

そこから浅草へ向かう。銀座線で一本。

最近競馬にハマっているリノちゃんが、「競馬のパドック(レーンを周回するやつ)で勃起してる馬がおんねんで!」と画像を見せてくれて、それが本当に立派過ぎて電車の中でイシシ!!と笑ってしまう。リノちゃんも笑いながら「馬も恥ずかしいやろ〜、パンツ履かせたったらええのになあ」と言っていた。

わたしはといえば、しょっちゅう行っている群馬の名犬牧場で、柴犬と自撮りしようとしたらお尻を向けられたので、ずっと「アナルとわたし」だと思っていた写真があるのだが、よーく見てみると、それはアナルではなくメス犬の膣の部分で、アナルは少し上に申し訳程度にあって、「膣とアナルとわたし」だったことを独白するとめっちゃ笑っていた。

 

そうこうしているうちに浅草についたので浅草寺へ。リノちゃんはお祭りとか屋台とかが大好きなようで、仲見世通り楽しみやな!と意気込んでいた。

わたしは数年ぶりの浅草。ついつい飲みたくなる気持ちを抑えて浅草寺の中へ。月曜日だったのに結構な人混みで、土日は凄いんだろうね〜と言いながら人をかき分ける。わたしが人に思いっきりどつかれてムスっとしていると、「観光で来とる外国人とかに、日本人意地悪や思われたないから頑張って堪えんねん」と良いことを言ってくれた。ヨッ!リノちゃん!

 

お参りして、喫煙所でやーっと煙草を吸って(オシャレな店はまず吸えない)、観光客がばらまくお菓子に群がる鳩から自分に似てるのを探したりして、おやつを食べに甘味処へ。リノちゃんはクリームあんみつ、わたしは田舎おしるこ。おばあさんになったらこういうところで働くのもいいな。

カバンを整理していたリノちゃんが自然な動きでわたしにチョコレートをくれて、わたしも自然に受けとる。さっきレーズンサンドをもらったばかりだけど。

 

浅草を出てから、狙っていた新橋のキムラヤという喫茶店へ。本当はプリンアラモードも食べたかったけど、お腹がパンパンだったのでアメリカンコーヒー

しゃばいコーヒー、って言って関東の人に伝わるだろうか?シャバシャバの、薄い、という意味で、リノちゃんはしゃばいコーヒー、ビール、ポカリが好きだと言う。こっちで東京の子に「しゃばい」と言ったらハテナがたくさん浮かんでいたので、関西圏の言葉なのだろう。言葉って不思議よね、って話をした。わたしは「なおす(元の場所に戻しておいて)」と言うのがなおらない。なおすがなおらない。母親が大阪で父親が福岡なので、わたしは少し独特の喋り方をしているらしい。方言や訛りって面白い。

 

夕方になって、わたしは別の用事、リノちゃんは飛行機の時間があるのでお別れになった。「わたしの行きたいとかばっか行ってごめんなー!」と謝っていた。「全然〜」と言葉少なく答えたけど、リノちゃんが行きたいところはだいたいわたしも行きたいところなのだ。

 

新橋駅のホームでいよいよバイバイするとき、リノちゃんは自分が好きで買ったはずのかりんとうを、強引にわたしに握らせて「ほな」と去っていった。もっとも、彼女の大きな愛は、わたしの小さなカバンには到底入り切らなかった。