うわごと

僕のマリ

踊り続けるなら

あんまり喜びすぎないようにしよう、っていつも思っていた。わたしは子供の頃から遅れていた。人並みに出来ることが、何一つなかった。普通にすることができなかった。だから、みんなが出来て当たり前のことを喜んだところで、虚しいだけだと、あるとき気づいてしまった。

それからはもう、自ら道化になるしかないと思っては、平気なフリして飄々と振舞っていたけど、本当はつらかった。

 

今年の春、好きなことをしてみよう、と思って文章を書いて発表した。100冊売り切った。自分の作ったものを、お金を出してまで欲しいと思ってくれる人がいることに、正直かなりびっくりしていた。色んな出会いが増えた。友達なんていらない、って意地張ってたのに、気づけばたくさんの縁に恵まれた。

それからずっと書き続けて、秋にもう一冊本を書いた。自分を晒してみようと思った。「いかれた慕情」と名付けた本に、恥ずかしいことをたくさん書いた。もう失うものなんてないし、と思っていた。やけくそだった。

 

一ヶ月経たないうちに、いちばん信頼していた編集者の方にBRUTUSで紹介して頂いた。発売日にコンビニで買って、フワフワした頭で読んだ。スノードームをひっくり返したような景色が見えた。わたしはあなたにずっと褒めてほしかった。だから涙が出そうだった。

 

そして、クイックジャパンにコラムを寄稿させて頂いた。最初はいたずらメールだと思って、色々勘繰ったけど本当だった。渋谷駅のホームで崩れ落ちそうになった。自分の名前が、全国で売っている雑誌に載った。嘘みたいだ。ばかげた夢が本当になってしまった。

 

色んな人から感想を貰って、胸がいっぱいになった。いままではあんまり素直に喜べなくて「でも」とか「別に」とか「運が良かったから」と言っていたけれど、本当に本当に嬉しい。「頑張ったね」というねぎらいと、「おめでとう」という言葉を、まっすぐ受け取って大事にしようと思った。

 

わたしは完全な本名では活動していない。雑誌に載せてもらえたことは、家族も友人も知らない。田舎で暮らす両親にいつか言えたら、と思う。二人の目にわたしはどう映っているのだろう。出来ないことばかりで、落胆ばかりさせてきたと思う。だからいつか、「色々あったけど、わたしの人生は確かに華やいだよ」と言いたい。

 

大好きな金色のしゅわしゅわでひっそりと祝杯をあげる。忘れたくなくてピアスを開けた。色んなことを思い出して大泣きした。喜びすぎてもいい、今夜だけは、今夜だけは

 

f:id:bokunotenshi_66:20181224000004j:image