うわごと

僕のマリ

占いなんかで愛をはかるように

「疲れてる?」と聞かれて、さすがに嘘はつけない。怒涛の5月に心身ともにクタクタだ。

 

土曜の朝、鹿児島へ。

わたしは福岡県出身だが本籍は鹿児島県魚見町に置いている。

母方の実家が鹿児島なのだ。

 

久々に親戚全員で集まろうという父の計らいで鹿児島に帰ったものの、兄二人は多忙で仕事を休めず、来なかった。本末転倒である。

 

叔母と祖母の二世帯住宅の家に着いて、犬を構いまくる。ダックスフンドを抱き上げて腹に顔を埋める。小さな頭に接吻する。頬ずりする。犬臭い匂いを吸いまくる。

 

そういえば祖母の家の向かいには頭のおかしい人が住んでいる。

マイホーム建設中に奥さんに夜逃げされたおじさんが一人で不気味な家を完成させた。

別段悪さをする訳でもないが、たまに思い出したように物凄くデカイ声で「ネコチャーーーーン!!!」と飼い猫二匹を呼ぶので心臓に悪い。

そのネコチャン達はよく叔母の車の下に身を隠している。

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余った敷地に立つ呪われたドラえもんの置物が異彩を放っている。

 

リビングで寛いでいたら野太い咆哮が聞こえてきて、あまりにしつこいのでイライラして「向かいの人やろ?」と聞いたら裏の人だと言う。

この町は気の狂った人だらけである。

何も無い土地から創造された狂気に圧倒された。

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タイヨーという鹿児島のスーパー。思い出が詰まっている。

 

 

昼過ぎに到着してから10回くらい食べ物を勧められる。

介護ベッドに横たわった祖母が司令塔の如く叔母に「マリになんか食べささんね」と呟く。

久々に帰ってきたので遠慮なく甘える。

「ウィンナーが食べたい。3本だけ。」という要求にも「了解」と叔母は迅速に応えてくれた。丁寧に切れ目を入れて塩胡椒で炒めていた。

わたしが食べると祖母は喜んだ。

 

母方の祖母は一昨年突然倒れ、要介護状態になってしまった。

それまでは自分のことは全部自分でこなし、日々カラオケや旅行や銭湯で大忙しの充実ぶりだった。

病気の影響でボケがはじまってしまったが、元の性格がかなりとぼけた性分だったぶん悲壮感が少ないね、というのが親戚一同の感想であった。

祖母はとにかく適当なのだ。買い物に行こうとバス停に並んでいる途中に全く知らない爺さんと意気投合して一緒にカラオケへ行く。焼き肉屋の駐車場で他人と談笑する。銭湯で知らない人の服と靴を履いて帰ってきて娘(わたしの母)に激怒されるなど、枚挙に暇が無い。

 

しかし、叔母も母もわたしと祖母はそっくりだと言う。 手の形や足の形は確かに隔世遺伝だと思う。

 

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性格も似ているらしい。確かにわたしも適当だ。

 

叔母と母からはLINEの使い方を教えてくれと質問攻めに遭った。

「なんでこの人と会話できひんの?」→ブロックしているから

「どないして電話かけるん」→電話のマークがあるでしょう

など、当人たちは真剣だがどうしようもない質問ばかりだった。

しきりに「ニャーニャー団のスタンプが欲しいねん」と騒いでいた。犬党のくせに。

二人ともバリバリの大阪のおばちゃんなので、黙ったら死んでしまうのかと思うくらい喋り倒している。

 

 

犬二匹はセロリときなこという名前だ。

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セロリが舐め癖が酷く、きなこの耳を舐め尽くしてボッサボサになっていた。

セロリはなんでも舐める。

リビングのテーブルの脚はセロリが舐め過ぎて禿げている。

その事を指摘すると、叔母は「せやねんせやねん、セロリがええ〜感じにしてくれてなあ!なんか舐めさすもんあったら言うてな!!」とまくし立てていた。

 

夜は親戚で焼肉を食べに行く約束をしていた。夕方になると従姉妹家族がやってきた。なにやら玄関でどっと笑いが起きているので見に行くと、私の靴の小ささが面白かったらしく注目されていた。そのサイズでも紐をギュッと結ばないと履けないという事は黙っておいた。

会うのは10年ぶりだった。

わたしが中学生の頃に可愛がっていた従姉妹の子供たちがすっかり大人びていた。高1、中2、小6の全員に身長を越されていた。まだまだあどけない顔で、「小さいね!」と笑っていた。

「大きくなったね」としみじみ言った。

高1の男の子はスポーツの特待生で実業高校に通っていると言う。

 

車で焼き肉屋へ向かう。

田舎はスシローやファミレスがとにかく幅を利かせている。

土曜日の夜の焼き肉屋はいっぱいだった。

 

親戚15人で焼き肉を囲んだ。美味しかった。

その後従姉妹とその旦那さんと近所のスナックに行った。歌いまくった。

めちゃくちゃに酔っ払って、最後の方は知らない女の人の腕の中にいた。

 

ソファで眠っていたら、朝、妙な感触で目が覚めた。

名犬セロリがわたしの足を舐めまくっていた。

 

着替えて祖母宅を出る準備をする。

ベッドに寝ている祖母に挨拶をする。

ボケているしすぐ忘れるから、思いっきり甘えてしまえと思ってベッドに寝転がったり手を握ったりした。

「あんまりお酒飲みすぎないようにしなさい」

「青白いからもっと日の光を浴びなさい」とお告げのようなことを沢山言われる。

最後の最後に、「じゃあね、また来るけんね」と手を振ったら、「あんた、かわいいねえ」と言われて、涙がツンと滲んだ。

忙しくても毎年帰ってこようと思う。

 

 

鹿児島から福岡へ。

父方の従兄弟の結婚式が博多で行われた。

 

挙式前の親族紹介では、うちは新婦側の4倍の人数だった。40人以上の親族を叔父が一人ずつ紹介する。

子供が多過ぎて名前を言うのにまごついていた。それはそうだろう。

 

お嫁さんは従兄弟の9つ下で、とっても可愛い人だった。

そういえばうちはバリバリの喪中である。

しかし奇しくも祖母の命日に入籍して式場も押さえていた為、挙式。

葬式であれだけどんちゃん騒ぎする家系なので喪中など関係ない。

従兄弟は美人なお嫁さんを捕まえた嬉しさか、葬式の際もしきりにニヤニヤしていた。

 

挙式中は泣きそうになった。

従兄弟の震えた声と手があまりにも尊かった。

お嫁さんの美しさに身震いした。

 

披露宴はほぼ子守りだったが楽しく終わった。

件の姪もドレスアップしていてとても可愛かった。久しぶりやねと頭をうりうり触った。

 

退場する時にお花を貰った。

東京から来てくれてありがとうとしきりに言われた。

お嫁さんはお酒が大好きだと言うので、年も近いし一緒に飲もうねと約束した。

初盆が楽しみだ。

 

福岡を去る時はいつも寂しい。

飛行機の手荷物検査のゲートをくぐる時の切なさに胸を焦がしている。

 

披露宴のキャンドルリレーの柔らかな光のことを思い出している。

  

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