頼りない天使
私は前世で纏足された囚われの身の中国の女だったんだと思う。
靴屋で「この靴の一番小さいのをください」と言うたびにうんざりする。足が小さ過ぎて絶妙に面白い感じになっている。
電車に乗っていたらお爺さんとその孫と隣り合わせて、その子供が自販機で買ったであろうコーンスープをおいしそうに飲んでたら電車の揺れでこぼれてしまって(そうなると思ってたよ)着ていたダウンがコーンスープでビシャビシャになった。
お爺さんが慌てふためきながらティッシュを探している間、子供は「あーあ、まあ脱げばいっか」と言って黒っぽい冬を脱いだ。
可愛いなあと思ってカバンの中で少しくちゃくちゃになっていたティッシュをあげて高円寺で降りた。
明後日、親戚の子供とディズニーランドへ行くというミッションを控えている。
多分東京(千葉だけど)へ来るの自体初めてだろう。こんなでかい遊園地も。我らがスペースワールドは閉園してしまったし。
いつか忘れてしまうかもしれないけど良い思い出にしてあげたい。
私はあまりちゃんとした大人ではないけれど頑張るよ。
最近何故か子供の頃のことを唐突に思い出したりする。
家の玄関の鍵を締めるガッチャンという音、主婦向けのワイドショー、いわさきちひろのイラストの描かれた絵本、たくさんある兄の漫画、弾き始めの電子ピアノ、全クリできないマリオワールド、母の鏡台を開けるとびっしり詰まっているシャネル、新聞の人生相談、(多分寂しくて)ボキボキ降りまくっていたクレパス、チェック柄の日記帳、アレルギーで全然触れないハムスター、どんぐり、鍵盤ハーモニカ、気合いを入れて絵を描くときの水彩絵の具の小さいバケツの黄色、 臍の緒が入っている箪笥、夏の豪雨、隣の家の茶色い犬。
昨日酔っ払って近所を散歩していたら突然どうしようもない気持ちになった。
ああ来てしまった、まだ見ぬ誰かに慕情する春。