うわごと

僕のマリ

花屋の娘

 

 

2009年の12月24日、私は17歳だった。

ケーキ屋のバイトをしていて(ケーキ屋は幼い頃から夢見ていた事の1つだった)、書き入れ時のクリスマスイヴは忙しく働いていた。ケーキ屋のバイトは楽しかった。幸せな人しか来ないから。

皆が幸福そうな顔つきでショーウィンドウを眺め、選び、帰っていく。クリスマスイヴは文字通り飛ぶようにケーキが売れて、フワフワとした多幸感に包まれて自宅に帰って、疲れて眠った。幸せだったと思う。翌朝、志村正彦の急逝を知り、泣き崩れるまでは。

あれから8年が経って、きっとあっという間に志村正彦と同い年になる。同い年くらいだったミュージシャンがどんどん年をとっていく。盟友、木下理樹はもう39歳だ。

数多のバンドの中でも、フジファブリックのコピーをした思い出は特に鮮明に残っている。8月の終わりに「若者のすべて」を演るベタな青春を抱えて。

 

年末年始が忙しいので今日のうちに部屋の掃除をする。花の水を替える。汚れた白いシャツを漂白する(悪趣味だがハイターの匂いが好きだ)。布団を干したりする。ART-SCHOOLと冬の相性は良い。ラグやセーターも洗う。ドライフラワーを拵える。りんごを切らずにそのまま齧る。髪を切りたい。こんな髪型、素人のちょっと器用な人ならすぐ切れそうだ。ずっと染めたりしてないから、会社に居た頃に「天使の輪が出来てる」と褒められた。天使。諸々の打ち合わせをする。レモンチーズケーキを買って食べた。レモン水とか、レモンビールとか、レモンが大好きだ。梶井基次郎の「檸檬」を久しぶりに読みたい。ワインを飲んで、2018年の手帳に色々書き込んだ。思い出したようにアコギを弾いた。このまま隣人が越して来なければいいのに。灰皿の中で銘柄の違うシケモクが混ざり合っている。これを「なんだかエロい」と言われたことがある。怠惰なだけよと言い訳した。煙が目に染みた。ブログで他人の恋を見てなんだか良いなと思った。心が華やぐ様子が、スノードームをひっくり返したような煌めきに満ちている。誰もが他人の恋なんてどうでも良いはずなのに、引き込まれる魅力的な文章だった。気がつけばこんな時間だ。そういえば私は花屋にもなりたかった。